子どもを伸ばす夫婦のコミュニケーション【Part1 子どもの教養になる会話】

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<お話を聞いた人:天野ひかりさん>
フリーアナウンサー。「おやこみゅ」NPO法人親子コミュニケーションラボ代表理事。一般社団法人グローバルキッズアカデミー主席研究員。
上智大学文学部卒業。テレビ局アナウンサーを経てフリーに。NHK eテレ『すくすく子育て』でキャスターを務めるなどメディアで活躍する一方、全国で子育てやコミュニケーションなどに関する講演会やセミナーを行う。最新著書『賢い子を育てる夫婦の会話』(あさ出版)※韓国語版も翻訳出版
天野ひかりオフィシャルサイト http://www.amanohikari.com

<聞き手:杉山錠士さん>
兼業主夫放送作家。NPO法人ファザーリング・ジャパン会員。
1976年、千葉県生まれ。高2と小3という年の離れた二人の娘を子育てする兼業主夫放送作家として、FMラジオを中心に情報番組、子育て番組などの構成を担当。「日経DUAL」をはじめWEBメディアでは各種コラムや記事を執筆し、「日大商学部」「筑波大学」や大田区両親学級、品川区男女共同参画課などで講演を実施。地域ではPTA会長やパパ会運営を歴任。子育てアイテム「パパのツナギ」企画制作販売、元パパ向け情報サイト「パパコミ」編集長。

トーク内容テキスト(一部編集しています)

(杉山)私はファザーリング・ジャパンのの会員で兼業主夫、放送作家の杉山ジョージと申します。よろしくお願いします。
それでは、今日の講師の方をご紹介します。天野ひかりさんです。よろしくお願いします。

(天野)皆様、こんにちは。よろしくお願いいたします。天野ひかりと申します。
私がNHKの「すくすく子育て」という番組の司会を始めたときに2歳だった娘は、高校2年生になりました。もう、むちゃくちゃかわいいです。「思春期の女子本当にかわいいですか?」ってよく聞かれるんですけれども。

1つにはたくさんの方に応援していただいて子育てをしてきているからかなと思っています。
私も夫も実家が名古屋・奈良と遠く、「ちょっとお父さんお母さん、子どもよろしく」っていうことができなかったので、私が仕事のときは夫が休みを取り、夫が仕事のときは私が休みを取り。

夫婦ふたりで一緒に子育てするのは当然なんですけれども、それだけではやっぱり手が足りなくて、ベビーシッターさん、保育ママさん、ファミリーサポートさん、病児保育さん、保育園、ママ友・パパ友、たくさんの方に応援していただきました。

お隣のおばあちゃまなんて、出産前までは道で会釈する程度だったんですけれども、いつの間にか家に上がりこんでご飯食べさせていただいてお風呂も入れていただいて…と、お世話になった。
ものすごくたくさんの方に応援していただき、娘を育てていただいたっていうだけではなくて、私自身をお母さんにしていただいたのかなと、本当に今となっては大きく感謝をしています。

もう1つはですね、NHKの「すくすく子育て」という番組。
今、鈴木あきえちゃんとピコ太郎さんが司会をしてると思うんですけど、その前にアンガールズの山根くん、その前にくわばたりえさん、その前の前ぐらいにつるの剛士さんと司会をしてたんですけれども、そこでたくさんの素晴らしい先生がたから、子どもの成長について教えていただきました。

子どもの脳ってどういうふうに発達していくの、言葉はどうやって獲得していくの、目はどういうふうに見えるようになるの、どうして歯が生え変わるの、心がどういうふうに発達していくの、そういうことをそれぞれの専門家の先生に教えていただいた。

その知識を持って娘を見たら、おもしろい!
これまで不思議に思ったり不安に思っていたことの謎が一気に解けて、「先生が言った通りだ。これには一つ一つ意味があるんだ」と。
知識を持って子どもを育ててみたら、こんなに子育てっておもしろいんだということを実感しました。

それを自分だけの子育てに活かしていてはもったいない、次世代に伝えていくことができたらいいなと思って、仲間と一緒にNPO法人「親子コミュニケーションラボ」を立ち上げまして、活動をずっと続けています。10年ぐらいになりますでしょうか?

目的はこうです。
子ども自身の考えをきちんと相手に伝えたいと思える子どもになってほしい。
そして、相手の言っている言葉の真意をちゃんと受け止められる子どもになってほしい。
そして願わくば、相手と自分の言っている同じ点・違う点をちゃんと認めることができて、対話をして物事を解決していきたいと思える子どもになってほしい。

最初は子ども自身の表現力や言葉を使ってという、プログラム作ってやった。
3ヶ月ぐらい経ったときに、どんどん伸びていくお子さんと、それから教室1週間に1回なんですけれども、来ていただいてるときはいいのに、1週間経つと元に戻ってしまっているお子さんとがいて、この違いは何だろうって。

気づいたのは、毎日一緒にいるお父さんお母さんの言葉かけ・関わり方が違うのかということ。
それで、どういう言葉で語りかけると、子どもがこういうふうに受け止められる、子どもの心にちゃんと響きますよっていう、親に向けたプログラムに作り変えたら、子どもがあっという間に変わりました。
最初に、お父さんお母さんが変わって、その後、子どもが変わる。

すごく嬉しい瞬間でした。参加された(お父さん)お母さんたちがみんな泣くんですね。
「『子育てがすごく大変』『なんて育てにくい子だ』と思っていたけれども、自分の言葉かけが間違っていたということに気づきました」って。
「これからすごく子育てがおもしろくなりました」っていうふうに言葉をいただくようになりました。

それをもとに、いろいろな講座をさせていただいているんですけれども、子育てにイライラしているお父さんお母さんの根底には、実は夫婦の関係があるのではないかということに気づきまして。
夫婦の会話の大切さも皆様にお伝えできたらいいなと思って、今日は、ジョージさんにこういう機会をいただきましたので、皆さんと一緒に考えていくことができればいいなと思っています。
よろしくお願いいたします。

(杉山)「すくすく子育て」のキャスターをされる前っていうのは、アナウンサーをされていたんですよね?

(天野)6年間局アナをした後フリーランスになって、NHKを中心に番組をやらせていただいております。

(杉山)そういう仕事をしてきたからこそ、言葉遣いや言葉の大事さをいろいろ感じる部分ってあったと思います。
大人同士で伝え合うのと、親子や子どもに対して伝えるのでも、相通ずるものはありますか?

(天野)多分、ほとんど同じだと思っておりまして。

もともとは大人向けの話し方講座をしてたんですけれども、娘が生まれたときに、赤ちゃんなのに、コミュニケーション能力の柔軟性や習得力の速さに、びっくりして。
大人に講座をやるよりも、0歳からやらなくちゃと思ったっていうのが、もともとの動機です。

(杉山)子どもの方が基礎ということでしょうか?

(天野)子どものことを丁寧にやっていれば、ほとんど全て応用がきくのかなっていうふうに思います。

(杉山)著書に『賢い子を育てる夫婦の会話』もあるように、子どもや親子のコミュニケーションについて取り組みをされている中で、夫婦の会話にたどり着いたのですね。
夫婦の会話は、どのぐらい子どもに影響するのか?
どういう会話が良い影響を与えるものだと思いますか?

(天野)ありがとうございます。
パパやママからお子さんへの直接的な言葉ってすごく大事だって思うんです。
でも、パパとママ、パパとおばあちゃんとか、ママとお兄ちゃんとかでもいいと思うんですけれども、そういう2人がお話をしてたり、他の人がお話をしているのを間接的に聞く言葉って、実はすごく重要だということを実感しております。

例えばね、(聞き手の杉山)ジョージさんね。
社長から、「君のこの企画、素晴らしいよ。よかった。ありがとう」って言われたら嬉しいじゃないですか。
でも、それは第三者が「ジョージさん、うちの社長がジョージさんの企画すごい素晴らしい!って、すごく褒めてたよ」って第三者から聞く方が数倍嬉しくないですか。

直接的な言葉は、社交辞令だったり、優しい嘘を感じ取ってしまうところがあるんですね。
忖度されてるんじゃないかって。
でも、第三者の言葉っていうのは、真実を話してるんじゃないかっていう意識が働くと思うんです。

だから、パパとママが話してる言葉を聞いた子どもの方が、それを素直に受け止めることができて、実は影響力が大きいっていうことなんですね。

ママが子どもに、「こんなことしちゃ駄目」と怒るようなときも、同じなんです。
「こんなことをせず、こうしてくれたら、ママ嬉しいな」っていうふうに言うと、子どもは、「そうか」ってその行動を直すかもしれない。
けれど、「パパに言いつけるからね、パパから叱ってもらうからね」と言うと、パパとママがどうも自分の知らないところで何か言っていて、それをパパから叱られるっていうと、やっぱり信頼関係が崩壊するんですよ。
それぐらいやっぱり第三者から聞く言葉っていうのは、子どもにとっては大きいですね。

褒めることも同じです。
ママから直接褒められるのもとても嬉しいけれども、パパから「ママから聞いたけど、今日こんなことしたんだって?すごいね!」って言われたら、やっぱり子どもは数倍嬉しい。

そういう意味でも、第三者が喋っている、パパとママの会話から受ける影響っていうのはすごく大きいんだと思うんですね。

(杉山)自分に関係してない話…例えば、友だちや友だちのお母さんお父さんといった第三者についての会話を聞いても、その内容や喋り方によって影響を受けるっていう感じですね?

(天野)そうですね。
今、申し上げた直接的な会話っていうのは、「知識の伝達」。
「こういうふうにした方がいいよ」とか「おはようございますって言いなさい」って子どもに言うよりも、子どもに関係なく、パパとママが、ちゃんと毎日「おはよう」って言う、何かしてくれたら「ありがとう」って言ってる、「パパはこれが好きだけど、ママはこれが好きじゃない」とかそういうことも含めて、2人で会話していることっていうのは、「子どもへの教養」になっていく。

これは汐見稔幸先生がおっしゃってくださった言葉なんですけれども。
「教養」は、今、直接的に問題の解決や何かに役立つことはなくても、長い人生において、一番、人を作る土台になっていく、と。
私も、子どもが小さいうちに影響を受けて自分というものを作っていくのに大きい影響を与えているのかなと考えている。
子どものことではなく、パパとママが政治のことや好きな本やドラマの話をしていても、それがやっぱり子どもの考え方、思想や、ものの見方を作っていく、大きな影響を与えているのかなと思います。

(杉山)それこそ夫婦の会話次第で、子どもが獲得できる能力、育まれる能力みたいなものは変わってくると?

(天野)だと思います。
私は5つの力があるのかなと思ってまして。

1つ目が、「コミュニケーション能力」です。
もちろん親子の直接的な会話でも育むことができると思うんですけれども、パパとママなどの第三者が話していて、「命令口調で言うと、相手は聞いてくれないんだな」とか、「否定ばっかりしてると嫌な気持ちになるんだな」っていうのを見てたり。
それから「ああいう言い方をすると一緒に楽しくできるんだな」「そういう伝え方をした方がいいんだな」って。
コミュニケーション脳力っていうものが、人を見ながら学んでいける。

2つ目に、「多様な価値観」。
パパとママで、考え方も、これまで育ってきたことも違うわけですよね。
昔は子育てってパパとママが価値観を合わせて子どもに伝えないといけないと言われてた時代も確かにあったんですけれども。
全然違う価値観を受け入れている、そしてそれを言ってもいいんだ、それを許される環境にあるんだ、こんな考え方もあるんだ、っていうことを当たり前に子どもが受け止めて育っていくことで、子ども自身も社会に出たときに、LGBTも含めて、いろんな価値観を受け入れられる土壌作っていけるのかなと。

それから3つ目に、今すごく教育界で話題になっている「非認知能力」、いわゆる認知できない力ですね。
何かをやり抜くことができるとか、人とうまく関わり合うことができるとか、自分の感情をコントロールすることができる力っていうのを非認知能力と呼んでるんですけれども、そういった力っていうのは子どもひとりではなかなか育むことができない。

3人以上の人間関係の中で、「こういうふうにお願いした方がいいな」とか、何かを一緒にやることが達成感が喜びだったりとか、やり抜くことを見てくれる人がいて、助言をもらえるような人がいてっていうところで育まれていく力が、「非認知能力」。

それから4番目に、「安定したアイデンティティ」と言っているんですが、「自分はここにいていいんだ」という感覚。
お父さんとお母さんが仲良くしている家族という自分の居場所、「自分は安心して自分というものを出せるんだ」っていう場所があることによって、自分のアイデンティティが確立されていくのではないか。

それから、5つ目の力として、「問題を見つけ出す力」。
これからの社会でとっても必要になっていく力かなと思っています。
昭和や平成の時代には、「知識の伝達」、つまり「正解」にどれだけ早く正確にたどり着くかを教育されてきた。
これからの令和や未来に生きる子どもたちにとっては、「正解」は一つではないっていうことを、子どもたち自身が作っていけるような力が必要になっていくんじゃないかと思ってるんですね。

それはなぜかっていうと、AI(人工知能)の登場があるからです。
今の小学校3年生が社会人になる頃は、今の仕事の6~7割ぐらいはAIにとってかわられているのではないかと言われている時代。
AIっていうのは、知識を入力すれば、すぐ答えを出せる。
そういう力っていうのは、私たちが習ってきた平成や昭和の時代の力ではもう勝てない。
ですから転換して、AIに絶対にできない力を育んでいかなくてはいけない世代を、私たちは子育てしていくことになる。

AIにはできない力っていうのが、「問題を設定する力」だと私は思っていまして。
「何が次に問題になるんだろうね」「次にみんなが必要とするものは何だろう」っていうことを、子どもたちが設計できるようにしていかないといけない。
そのときに、じゃ、どういう子育てをしたらいいのかっていうと、「知識の伝達」ではなくて、子どもたち自身が自分たちで考えて、「そっかそれが不安だよね」「それって大変だよね」「こういうことがなくなったらいいのに、どうしたらいいんだろうね」っていう、コミュニケーション、話し合いをしていく中で生まれる力だと思っているんですね。

もちろん社会の方が早く気づいていて、大学入学共通テスト、「答え」が一つではなくっていくつもあるようなものを解いていくいうようなテストに変更されてきたり。
それから、学校の授業参観に行けばわかりますけれども、授業もずいぶん変わってきています。
私たちの時代は、先生が板書をして、「答えを早く出しなさい」「私の出す答えにたどり着きなさい」っていう教育だったと思うんですけれども、今授業参観行くとびっくりしませんか。

先生が急に「じゃあこの問題について、グループ作って話し合ってください。」
子どもたちはすごい楽しそうにワイワイ話し合って、親たちは「何をしているのかしらね」と言っているうちに、授業が終わる。
親たちは「答えなんだったの?」とザワザワする。
そう、私たちは「答え」を知りたい世代なんですけど、「答え」なんかないっていうことを子どもたちが学んでいくっていう、すごくいい授業に変わってきている。

社会では、昔は、既に「答え」を持っているカリスマ社長が、「白だ!」と言ったら社員が皆「白」に向かって頑張るっていうのが、高度経済成長期においてすごく伸びたと思うんですけれども。
今は、ボトムアップで、みんなが生活の中に困っていることや自分たちが解決したいと思っていることを話し合って、「こういうことを会社でやりましょうよ」と出している企業の方が勢いがあると言われている。

会社も変わってきているのであれば、家庭の中でもきちんとそういう力を育むために、パパとママがいろんな考えを話し合っているのを、子どもも参加しながら一緒に学ぶことで、そういった問題を設定する力っていうのを育んでいかなくてはいけない時代に入ってきているのかなというふうに思います。

それが、夫婦の会話から子どもが育むことのできる5つの力です。

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