<お話を聞いた人:副島賢和さん>
昭和大学大学院保健医療学研究科准教授 病弱教育のスペシャリスト
1966年福岡県生まれ。都留文科大学卒業後、25年間東京都の公立小学校教諭として勤務。1999年、都の派遣研修で、東京学芸大学大学院にて心理学を学ぶ。2006年より品川区立清水台小学校教諭・昭和大学病院内さいかち学級担任。学校心理士スーパーバイザー。ホスピタル・クラウンの活動もしている。ドラマ『赤鼻のセンセイ』(日本テレビ/2009年)のモチーフとなる。2011年には、『プロフェッショナル仕事の流儀』(NHK総合)にも出演。
<聞き手:杉山錠士さん>
兼業主夫放送作家。NPO法人ファザーリング・ジャパン会員。
1976年、千葉県生まれ。高2と小3という年の離れた二人の娘を子育てする兼業主夫放送作家として、FMラジオを中心に情報番組、子育て番組などの構成を担当。「日経DUAL」をはじめWEBメディアでは各種コラムや記事を執筆し、「日大商学部」「筑波大学」や大田区両親学級、品川区男女共同参画課などで講演を実施。地域ではPTA会長やパパ会運営を歴任。子育てアイテム「パパのツナギ」企画制作販売、元パパ向け情報サイト「パパコミ」編集長。
トーク内容テキスト(一部編集しています)
(杉山)院内学級でのsosをどういうふうに受け取れるのか?
(副島)その子がどうやって表現してくるかっていうのを早い段階で見抜いていきますね。
わからないときは親御さんに聞いたりとか、元いた学校に連絡をしたりします。
暴れたりイライラしたりする子を落ち着ける方法として、「この子は小さい時、どこを触ったり、どうするとよく寝ましたか」というのは、情報としていつも親御さんに聞いていました。
「この子は背中をトントンしてあげるとよく寝ました」っていう時は、例えば背中をトントンしながら叱ったりね。
「あなたねあなたね」って背中をトントンしながら、「それがしちゃいけないって、本当は自分でわかってるよね」って言ったり。
その子が体を落ち着けながら話を聴くための方法は、親御さんの方が情報を持っているので。
(杉山)やっぱり体と心っていうのはリンクする?
(副島)僕はそう思っています。体と心とそれから頭。
頭は、体と心を抑え込みにかかるんですけどでも、どこも、すべて影響しあっていると思っています。
(杉山)大人が「コロナを気にしてない」レベルを子どもにどのぐらいに見せるかというのは?
(副島)僕は「気にしている」と、見せちゃっていいと思ってるんですけど。
その代わりそれを、子どもにポンって投げたままで終わらせない。
もちろん、(コロナの情報などが)テレビがダラダラとおうちで流れているのは消したりした方がいいと思うんです。
大人はネットで情報入れたりできるはずだから。
子どもがお笑いとかアニメとかずっと見てて、親が「ニュース見たんだけど…」と言っても、「やだー」とか言ったりするの、もしかしたらコロナとかの情報を見たくないのかもしれないんですよね。
だからそういうところは、大人はいろんな手段があるので、そちらで情報を入れることができるかなっていうのが思っています。
大人が「怖いな」って思ったことが子どもに伝わっちゃったなと思ったら、大人も「怖いんだよ」ってちゃんと言ってあげていいと思うんですよ。
ただ、大人は今こういう風に考えているから、
「お母さんは、お買い物から帰ってきたらすぐちゃんと手洗ってうがいして
やっているでしょう」
「お父さんは会社から帰って来たら真っ先にお風呂入ってやってるでしょう」と対応策をきちんと見せてあげることが、大切。
子どもはわかってないって思うかもしれないけど、幼稚園の子でも言葉がわかるなったらそうすればいいし、もっと小さい子だったら「ごめんね、ちょっと怖かったね」って言いながらトントンして、「大丈夫よ」って言って、柔らかい感覚を渡してあげるということをしてあげればいいのかな、と考えています。
(杉山)なるほど。
「しんどい」と、「しんどさを見せる」というか。
派生すると思うんですけど、大人も、「コロナ疲れ」してるじゃないですか。
家帰ってきて何もしないでダラッとしたりとかしたくて、しちゃう時もあるじゃないですか。
子どもからすると、自分たちには「やれ」って言うくせに、親たちはたらけていると見えたり…とかいう部分もあると思います。
大人はどのぐらい「ありのまま」を見せていいのかっていう部分って、どうなんですかね?
(副島)それは今までのご家庭がどうだったかっていうのはすごく大きく影響するなると思います。
この大変な状況では、大人だって大変。
「ちょっと今、お父さん自分の部屋に入るからね」とか「トイレ入っているときは声かけないで」とか「お風呂入ってる時はちょっとだらっとさせて」とか。
大人も、見えない場所でダラっとする必要もある。
例えば、「お父さんはお酒飲んでお笑いを見ている時は、その中に入っているから(そっとしておいてあげて)」っていうのをお母さんが言ってくれたりとか。
子どももそうなんですよね。
自分の部屋がない子が、例えば自分の好きなソファーや、座布団や、お布団の中など、いつもの特定の場所にいるときには、(ゆっくりしたいときだから)あまり声をかけないとか。
知らないふりするんじゃないですよ。
「寒くないの」「ごはんできたよ」などの声掛けはする必要があると思う。
本当は、大人は今まで帰り飲み屋に行ったり、友人としゃべったりしてお家に帰っていたんでしょうけど、それが出来なくなったのなら、おうちの中で10分でも20分でも、そういう空間を確保して、ゆっくりと時間を過ごす必要があるんだと思いますね。
「お父さん(お母さん)が部屋に入ったときにはちょっと話しかけないでおこうか」って。
で、部屋から出てきた時に、お父さん(お母さん)は、家族にちゃんと「ありがとう」って言うべきですよ。
「大丈夫。復活したよ」「ちょっと元気になった」とかね。
子どもをぎゅーって抱きしめて、「ありがとう」って言ったっていいしね。
「大人も大変なんだな」っていうのは、子どもも分かっているので。
「大変なときは皆それぞれが助け合って生きるんだよ」って、堂々と子どもに見せてあげていいんじゃないんですかね。
そしたら子どもは、大変な時の生き方をこの時に身につけていくと思うんですよ。
(杉山)なるほど。
「受容」と「許容」の違いについて。
行動としてはよくないようなことでも、子どもたちのエネルギーをためるためのわがままだったり、「疲れた」というsos であれば、「受容」はする?
(副島)「受容」って感情を受け止めること。
順番がすごく大事で、まず感情を受け止めることが大事なんですよ。
「あなたはこういう感情でいるんだよね。だからおもちゃ投げちゃったのよね」
「そうか、それはつらかったね。それは嫌だったね」って伝える。
それが子どもに伝わったなって思ったら、
「でも、おもちゃ投げちゃいけないって自分でわかってるよね」「次はそうしないようにしようね」と伝える。
「そういう時には、もう『やだ』って先に気持ちを伝えてって」と、子どもにその行動をしなくていい方法を伝えてあげるのが大事だと思っています。
(杉山)小さな子どもたちの言葉の中にも、いろんな感情って出てきますよね。
「薬を飲まない」と「飲みたくない」が違うっていうか。
(副島)「やらない」と「やりたくない」は違う。
「やりたくない」って言った時は、「やりたくない気持ちを聞いてよ」という意味。
「やらない」って言った時は、「別に引っかかっていることがあって、今はそこを向けない」って言ってるんですよね。
例えば、「学校行きたくない」って言っている時は、学校に行きたくないという気持ちを聞いてほしいのねと、「そうか、学校行きたくないんだねえ」っていうことを返してあげればいい。
けれど、「学校行かない」と言ったときは、何が引っかかっているのかを探してあげなきゃいけないんですよ。
もしかしたら学校だけに原因があるわけじゃなくて、今この状況で自分だけ学校に行くのは、ちょっと心配だとか、苦しいとか。
別に引っかかっていることがある場合が多いので、それを一緒に探すのがすごく大事だと思っています。
(杉山)子育てをする上で、親が大切にした方がいいことは?
伸ばす…のびのびと育てるというかそういう意味で大事なポイントって何でしょう?
(副島)一番は、「子どもを信じること」だと思ってるんです。
そこだけは外しちゃいけない。
子どもを信じるということを大前提にして、今はその子のを伸ばしたいものは、「できる・わかる」ものなのか、それとも、自分を大切に思う気持ち・自分は愛されているとしっかり感じること・「こんな自分でもいいんだよ」って思えることなのか。
そのふたつは違うので、そのどちらを今この子に育てたいかっていうのを間違わないこと。
自分を大切とか自分を大事とかっていうのは、「基本的な自尊感情」と近藤卓先生という方が呼んでいます。
「できる・わかる」という社会的な自尊感情は、風船のように膨らんだりしぼんだりする。
この大変な状況において、基本的な自尊感情である「自分は大切」って思う気持ちを育てられているかっていうところを、常に自分は振り返っています。
自分の子育てが100%うまくいったとは思っていませんが、「あの時こうしておけばよかった」ということは、子どもの前では絶対言わないと決めているんです。
「あのこうしなければよかった(こうしていればよかった)」…それは、「今のあなたはダメですよね」って言ってるようなものなんですよ。
思うことありますし、夫婦でそういう話をすることもある。
「あの時なんで塾に行かせなかったかね」「なんで習いことをやめさせなかったかね」って話するけど、それは絶対子どもの前ではしない。
「今のあなたはダメな存在」っていうことを伝えるような言葉や表現を、その子に渡さない。
「今のあなたが一番素敵」って、どんな時も言い続けられるように、思えるように、自分の状態を、パートナーも含めて考えています。
(杉山)子どもが「あの時ああすればよかった」と言ったら、何て言うんですか?
(副島)「そう思ってるんだね」って言ってあげるだけです。
(杉山)それを否定しちゃダメなんですね。
「そんなこと言うんじゃない」もダメなのか。
(副島)それ、言わないな。
だって、そうそういうふうに思っているのは別に悪いことじゃないから。
ただ、「私たち親があの時塾に行かなかったから、この高校なのよね」とかっていうのがついたら、「じゃあ、この高校に入った今の私はダメなの?」になっちゃうんですよ。
そんなはずないじゃないですか。
だからそこはとても気をつけてますね。
それは、保護者会とかでも親御さん達にお願いをしています。
もちろんそういう思いも出てくるんですよ。
だから、親もそれをしゃべるところがないとダメなんですよ。
自分自身も、パートナーや、絶対ここから外に漏れないという仲間には、しゃべったりします。
でもそれは子どもに渡す言葉じゃないなというのは思います。
(杉山)それこそがやっぱり、子どもを伸ばしていくために必要なこと?
(副島)子どもを伸ばすというのは「できる・わかる」を味わわせることが良いと思われるかもしれませんが、「できる・わかる」を伸ばすためには、その子が「今の私は素敵」「今の私は愛されてる」「今の私は大切な存在」って思えることが大切です。そのためには、どうしたらいいか、をみんなで考えてやっていくことかなって思います。
(杉山)ありがとうございました!
【赤はな先生 副島賢和先生をもっと知りたい方へ】
(副島)『赤はな先生に会いたい!』(金の星社)子ども向けの本です。
(杉山)何歳ぐらいから読めますか?
(副島)ふりがなふってあるので、本好きな子は中学年くらいから読めると思い
ます。中学生高校生も。
図書室においてもらいたくて作った本なんですよ。
それから、出版した2冊がこれです。
『はなれていても、だいじょうぶ』(学研プラス)
『ストレス時代のこどもの学び』『風鳴舎』
今日の話はこの本に書いてあることが多いかなと思います。
もしよかったら、図書館でリクエストしてください。