コロナ禍で気になる子どもたちのメンタルケア【Part2 どうする子どもたちのSOSと大人の対応】

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<お話を聞いた人:副島賢和さん>
昭和大学大学院保健医療学研究科准教授 病弱教育のスペシャリスト
1966年福岡県生まれ。都留文科大学卒業後、25年間東京都の公立小学校教諭として勤務。1999年、都の派遣研修で、東京学芸大学大学院にて心理学を学ぶ。2006年より品川区立清水台小学校教諭・昭和大学病院内さいかち学級担任。学校心理士スーパーバイザー。ホスピタル・クラウンの活動もしている。ドラマ『赤鼻のセンセイ』(日本テレビ/2009年)のモチーフとなる。2011年には、『プロフェッショナル仕事の流儀』(NHK総合)にも出演。

<聞き手:杉山錠士さん>
兼業主夫放送作家。NPO法人ファザーリング・ジャパン会員。
1976年、千葉県生まれ。高2と小3という年の離れた二人の娘を子育てする兼業主夫放送作家として、FMラジオを中心に情報番組、子育て番組などの構成を担当。「日経DUAL」をはじめWEBメディアでは各種コラムや記事を執筆し、「日大商学部」「筑波大学」や大田区両親学級、品川区男女共同参画課などで講演を実施。地域ではPTA会長やパパ会運営を歴任。子育てアイテム「パパのツナギ」企画制作販売、元パパ向け情報サイト「パパコミ」編集長。

トーク内容テキスト(一部編集しています)

(杉山)副島先生がずっと見てきた小学生だと、比較的行動がわかりやすい、背伸びしてるのもよくわかる、みたいなところがあると思うんですけど、もっと小さい未就学児の子たちも、今の生活に対してストレスがあるのかなと。
あと、去年の緊急事態宣言では、外出も完全にやめなさいとか、保育園も登園できないということになってたのが、今回(2度目)の緊急事態宣言というのは、一応外に出れたりとか、保育園も動いていたりとかいうような状況ですけど、それでもやっぱり変わらず影響があるっていう風に感じていますか?

(副島)子どもたちは、この状況を大人のようにはわかってないんじゃないかな、コロナなんて言ったってわかんないしって思われることがある。
確かに、大人のように感染予防とかコロナの陽性率とか、大人が理解しているようには理解はしてないと思います。

ただ、子どもたちが大人以上に感じていることは、大人の様子なんですよ。
大人がこの状況で、どんな思いで、どんな辛さで、どういうふうに感じているかっていう、大人が感じていることを、子どもはビシビシ受け取っています。
だって、そうしないと子どもって生きていけないから。

例えば、大人がテレビを見て「わー大変だ」「緊急事態宣言、どうしよう」「学校が休校になる」ってなっているその不安は、どんな小さい子にも伝わっています。
親御さんの口調が変わったりとか、抱き方が変わったりとか、お家の中の雰囲気が変わったりとか、そういうのはビシビシ感じるはずなんですよね。

そして小学生ぐらいになると、この状況で感染に気をつけながらお父さんは電車に乗って仕事に行っている。お母さんは僕たちのためにお買い物に行かなければいけないというのを見ている。
「今日もいっぱい咳をしている人がいる」「あーどうしよう」って、子どもはものすごく心配しているはずです。
でもそれを親に言うと、「いいのいいの。子どもはそんなことを考えなくていいから」と言われる。それは、子どもにとって、とても辛いことなんですよねぇ。

こういう状況は一大事なので、(子どもたちも)自分もどうにかしたいって思う存在なんですよ。どうにか手伝いたい。

でも、入院している子たちもそうなんですけど、おうちの中で一大事があると、それまで大人が隠してたというか、水面下に置いてたことがポコポコ出てくるんです。
例えば、お父さんとお母さんの仲だったり、おじいちゃんおばあちゃん家族や、その親戚との関係だったり、お家の経済状況だったり。普段子どもたちに見せないように過ごしてきたものが、子どもに伝わるんですよね。

だから子どもたちって、言語化できないけれども、ものすごく、体で危機的な状況は感じているはずです。

学校が休校開けの具体的な行動化があった時期も大変だった。
けれど、今は今で、そういうことをないものにして過ごそうとしている雰囲気、「今までと同じだよ」というふうにして過ごそうとしている雰囲気の中で、子どもたちは、「いや違うでしょ」「なんか危ないでしょ」「どうしたらいいの」というのを、より出せなくなってますよね。

今までは、「大変だよー」「学校休みで友だちと会えない、やだよ」て言ってたのが、「今までと同じようにやっているじゃないの」っていう雰囲気の中で、子どもたちはどうやって自分の不安を周りに伝えればいいんでしょうね。
自分の不安を解消していけばいいんでしょうね。
ということが、今のこの時期の子どもたちに、ジャブのように入ってきている辛さなんじゃないかな。
それが多分、数年後にいろんな形を変えて、このまま通り過ぎていると出てくるんじゃないかなっていうのは考えています。

(杉山)数年後ってお話しされてましたけど、以前先生とお話をしたときに、例にでたのが東日本大震災だったと思います。
震災の後どのぐらいのギャップで出たりしたのか、どういう影響が出たのか、ということを教えてもらえますか。

(副島)東日本大震災が2011年3月に起こって、当時、福島の子たちはお家から出ないように、というのがあって、肥満が増えたというデータがあります。

それから、宮城のお子さんたちは、それまでは不登校のお子さんの人数って、だいたい全国平均ぐらいだったんですけど、1年後ぐらいから、急激に上昇して、全国上位になっていった。
それはここ10年経っても、いまだに元の状態に下がってないですね。そういうことがあります。

あの時1年後ぐらいに、子どもたちの状況が心配になってきてっていうのがデータで出てるんですけど、不登校とかいじめとか万引きなどの不適応行動が、全国平均よりも急増しているっていうことがわかっていますね。

(杉山)不登校、いじめ、不適応行動が宮城で急増したっていうのは何か理由があるんですか?

(副島)福島に住んでいる子たちが、全国に散らばりましたよね。だからおそらく、教育委員会がちゃんと追えてないということもあるんじゃないかということがあるので、福島ではそういうことがなかったというわけではないと思うんですよね。
宮城も学校や地域によって全然違いがあって、全部が全部そうなったわけではないんですけど、データだけ見るとやはりいまだに高い状況にあるっていうのが実態ですね。

(杉山)逆にそういうときに大丈夫だったところっていうのは、何か特徴がある?

(副島)宮城の先生方とお話をした時に、地域がしっかり子どもたちや家族のフォローしていたところ、学校が子どもの心の面をしっかりケアをしてやっていたところは、不登校とか、ストレスに対する行動が抑えられているっていうのがわかっています。

熊本も、災害がありましたよね。
熊本と宮城を同等に比べるわけにいかないと思うんですよ。いろんなことが違うと思うんですけど、熊本が不登校とかが増えなかったのは、やはり地域がそのままきちんと残っていたからということが言われている研究があります。
そのへんのことはとても大きいんじゃないかなって思いますね。

(杉山)具体的には、地域のつながりとかそういうことですか?

(副島)すべてのことに言えるエビデンスがあるというわけじゃなく、熊本の方から聞いた話ですが。
熊本の一部地域では、学校の地域よりもっと小さく、いくつかの世帯で町会のようなまとまりがあって、困ったらそこで助け合おうっていう、いわゆる公助がしっかり出来上がっていて、それが熊本の震災の後も活かされたそうです。

(杉山)例えば院内学級やいろんなところで子どもたちが sos を発したとき、さっきの「退行」であったとしたら甘えてくるっていう行動があって、そういうときには甘えさせた方がいいのかとか、それを受け取れる、フォローできる状況っていうの今あるのかっていうところですね。

(副島)甘えたり、イライラして怒ったり、ぼーっとしてたり、その子のストレスに対するいろんな表現の仕方、sos の出し方があると思います。
「退行」している子どもたちだとしたら、今目の前の子が「何歳に見えるか」で関わる必要があると思います。
本当は中学生でも、甘えん坊の5歳ぐらいの子に見えたら、その瞬間だけは5歳の子だと思って関わる。
別に幼児語を使うわけじゃないですよ。でも、この子が5歳だったら、もっと優しい言葉かけるかな、もっと一緒にいてあげるかな、もっと肌触れるかなって。

子どもは、エネルギーがたまったら、パーンて離れていきますよね。
「うぜぇ!」と言ってね。
でもその時はスッて離れてあげればいいんだと思います。
そうやって子どもはsosを出しながら、安全安心をもらいながらエネルギーをためていくので。

大事なことは、子どもの「今」のを大事にしてあげること。
子どもは本来「今」に集中している時、味わっている時にエネルギーがたまる。危険・危機的な状況になると、「先を見て今の行動を決めなさい」っていっぱい言われるんですよね。
それだとエネルギーって減っていくばっかりなんですよね。

だから今は、その子がごはん食べて「おいしいな」って感じるなら、「早く食べなさい」とかじゃなくて「おいしいね」って一緒に味わってあげることが必要。
虫を見てじーっとしてたりしてたら、「道の真ん中で危ない」とかって言わずに「綺麗な虫ね」って言ってあげたり。
水たまりに入ってバシャバシャやってたら、「汚れて洗濯が大変!」「風邪ひくでしょう」じゃなくて「わあ、楽しいね!いい音してるね!」って言ってあげ、後から「じゃあ一緒に洗濯しましょうね」って教えてあげたりするのが、子どもにとって、とても大事なこと。

そういう一つ一つが、子どもの sos に対した反応と、そこからエネルギーをためることになると思っています。

ただ先ほどの「受け取る」って言うことに繋がって言うと、やっぱり一人じゃ無理です。こちらの状態もあるし。

今回の大変なこと(コロナ禍)は、私たち全員が当事者ですから。
私たちの考えていることや感じていることが子どもに出てしまうので、そうすると一人でやるっていうのは無理だなって思います。

だから、自分ができることは誰かに渡して、誰かのできることを受け取りながら、先ほどの地域のようにチームを作って、受け取り、関わっていく必要があるんだと考えています。

(杉山)副島先生は、ストレスを抱えている子と接することがもとても多かったと思います。例えば院内学級で手術を受ける子、受験に失敗した、お友だちと喧嘩しちゃったとか、いろんな形で傷ついた経験をして、それでも前に進まなきゃいけない時に、どうやって接するようにしてました?

(副島)一番気をつけているのは、その子との距離感ですね。
その子たちって実は、傷ついている時って、あまり踏み込んでほしくないけど、知らないふりもして欲しくない。
今回のコロナもそうなんですけど、大人もそうだけれど、子どもが喪失とか傷つきの中にいる時って、やっぱり自分を一番苦しめるのは孤独感だと思っているんです。
だから「ひとりじゃないよ」っていうことを渡しに行きたいと思うんです。

ただその時に間違っちゃいけないのは、距離感。
その子が自分のこれ以上入ってきてほしくないっていうエリアがあるじゃないですか。
それって心理学では同心円状に書いてあるけど、もっとぐじゃぐじゃしたもので。
そのエリアにちょこっと踏み込んで、また離れて、っていうことをしながら、距離を間違わないっていうのを、すごく考えます。

小さい子はエリアがすごく小さいですから、ぎゅっと近づいていって「どうしたの何があったの?」「何かできるかな?」「こうすればいいのよ」みたいにして、やってあげればいい。

けれど、中学生ぐらいに同じようにやったら「うるせえ!」って言われていますよね、当然ですよね。
その時はその子の表情を見て「なんか悲しそうだね」って言って、それ以上の「何があったの?」は我慢です。
後からその子が落ち着いた時に、「そういえば昨日とっても悲しそうな顔してたけど…?」と聞いてあげれば、子どもは、「ちょっと聞いてよ」って言ったり、「解決した」って言ったりする。

すごく心配なのは、その時にパニックになる子はやっぱり、心理学でいう「フラッシュバック」だと思うので、別の専門家に繋げる必要ある。

距離感を間違わない。
「あなたを大切に思っている」という距離感をやりつつ、いつでも子どもたちが「先生」って言ったときに「ん?」って返事できるような場所にいる。
それは物理的にいるか、心がいるか、メールでできるようにしておくか、その子に合わせたやり方がいろいろあるんですけど、そういう距離にいるっていうことをすごく気をつけています。

(杉山)そういう存在に一人一人がなっていくことが大事。
その距離感って一人一人違うじゃないですか。
一人一人をちゃんと見てないと距離感ってわからないってことですよね?

(副島)距離感を間違えた時、表情とか体の硬さとかで出ますよ。
特に病院って、ベッドの上にいるから逃げられない。
普段関わってたら、逃げたりする子もいるじゃないですか。
そういう行動ができる子たちはいいんですけど、逃げられない子もいるんですよね。
「先生が来たんだから逃げちゃいけない」とインプットされてたり、「親が言うんだから逃げちゃいけない」と思ってたりすると、逃げられない。

そうすると、体を硬くしたり、こちらが「聞いてるの?」と言いたくなるような表情をしていたり、ゲームから絶対目を離さなかったり、子どもたちはそういうことをやってきますからね。

(杉山)なるほど。「聞いてるの?」ってみんな言っちゃいますよね。

(副島)そうそう、言いたくなります。
でも、それはこっちの不安を渡してるだけなんですよね。その子の不安を受け取っているわけじゃないんですよ。
何度も自分で反省してますけどね、「ああ、またやっちゃった」って。
教師としてはでれるようになったんですけど、やっぱり家族は難しいんだよね。
私も娘2人いるんですけど、家族は難しい。

(杉山)なんで家族は難しいんですか?

(副島)「受容はするけど許容はしない」って僕よく言うんですけど。
感情は一生懸命を受け止めるんですけど、「ダメなもんはダメだ」って言う。
それからやらなければいけなことは「やりなさい」と言う。
そこを揺るがないっていうのが、子どもを守るためにも大事なことだと思っているんです。

で、感情を受け止め始めたら、行動までなし崩しにダラダラって行ってしまいがちなんですよ。
家族はいろんなことがわかるから、

だから、反対に、その何をやらせたり何かを停止したりするときには、感情を聞かないようにしてやりがちなんですよ。
そうするとまた、関係の中で、うまくいかないことがいっぱい発生してくるんですけど。
でもそう考えたときに、子どもをどうにかしたいっていう思いが親側は強いし、
子どものいろんなものが自分の中に入ってくる。自分の育てられた環境が影響したりします。
そういうことがすごく強いから、やっぱり、家族は難しいと思うんですよ。

だから、子育ては周りに助けてもらうしかないと思います。

(杉山)例えば親1人対子1人よりも、親2人…夫婦が揃ってた方が、まだどっちか客観視できるっていうのはあるんですかね。

(副島)そのとおりです。学校の教員もそうなんですけど、おうちでも言い始めたら引き下がれなくなるじゃないですか。
その時は、例えばお母さんが「もうわかったよね。お父さんはこうやって伝えたいんだよ」って、「じゃあもう自分の部屋行っていいから」とかそういうことを(夫婦間で)目配せでできたり。
私が(とんとんと)机を叩いたら止めに入ってくれっていうのを決めといたりね。
そういうことを夫婦2人いたらできますよね。

(杉山)かつ、夫婦2人がしっかりとそこを共有できているかってことですよね。

(副島)そうです。何もないときに話し合いができているかということです。
そういうことをやっぱりすごく大事だと思うんですけど、家族は難しいので、学校とか、医療とか、福祉とか地域に手伝ってもらって子育てするんだと思いますね。

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