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【Part1 東日本大震災の体験談】
【Part2 家庭内の防災チェックポイント】
【Part3 備えるのは食料よりトイレ!?】
【Part4 日々の暮らしの中での備え】
<お話を聞いた人:アベナオミさん>
防災イラストレーター
1985年生まれ。宮城県出身、在住のイラストレーター。日本デザイナー芸術学院仙台校を卒業後、地元情報誌のデザイナーを経てイラストレーターに。コミックエッセイを中心に活動中。現在は3児の母。長男が1歳のときに東日本大震災を経験し、防災に関するイラストとコミックがライフワークの一つ。2016年12月には防災士の資格を取得。
<聞き手:杉山錠士さん>
兼業主夫放送作家。NPO法人ファザーリング・ジャパン会員。
1976年、千葉県生まれ。18歳と10歳という年の離れた二人の娘を子育てする兼業主夫放送作家として、FMラジオを中心に情報番組、子育て番組などの構成を担当。「日経DUAL」をはじめWEBメディアでは各種コラムや記事を執筆し、「日大商学部」「筑波大学」や大田区両親学級、品川区男女共同参画課などで講演を実施。地域ではPTA会長やパパ会運営を歴任。子育てアイテム「パパのツナギ」企画制作販売、パパ向け情報サイト「パパしるべ( https://papashirube.com/ )」編集長。
◎協力:Read it LOUD阿佐ヶ谷校(アルーク阿佐ヶ谷内)
トーク内容テキスト(一部編集しています)
(杉山)片づけは普段の家事としても大事だけれど、防災上も役立つ?
(アベ)東日本大震災の時にも、ここ2~3年大きな揺れに見舞われるたびにも、ものが落ちないのがすごく重要だということを痛感しています。
ものが少ないと、すぐに情報収集できたり、必要なものを出したりと、地震後の初動が早くなります。
揺れたら落ちそうなものを置かない。
食器、調味料、調理器具など、キッチンは家の中でも一番ものの多い場所です。
そこが散らかってしまうと、水が汲めない、食事が作れない…
調理ができないとなると、避難所に行くことになり、自宅避難はできなくなってしまいます。
私のように、小さな子どもを抱えて。
ものが散らかると、「家が危険だから避難所に行かなければならない」という発想になります。
ものを少なくして危険を取り除いてあげることが、親ができる一番の防災活動だと思います。
(杉山)地震対策としては、大きい家具が倒れないようにするなどを思い浮かべます。
それで安心するのではなく、落ちそうなものを置かないことから始めていくといい?
(アベ)これは、私の実家の経験談です。
父は消防士で、実家の防災力が高かったです。
家具は金具で固定され、照明器具もすべてチェーンでつながっていました。
けれど、タンスの上に書類を置くのが習慣になっていたため、地震の際に全部落ちて、足の踏み場がなくなりました。
揺れて落ちるものをなるべく排除していくことは、とても大事です。
収納の中に入れることが大事なので、まずは収納内を片づけることになります。
その後、普段出しっぱなしになってしまっているものを全部収納できるようにします。
部屋もスッキリしますし、不用品も家から出て行くので、家全体が軽くなります。
(杉山)床にものを置くのは?
(アベ)床に置いたものは揺れて壊れるなどがないので、まだいいです。
やっぱり、高いところからものがジャンプしてくるのが一番怖いですね。
震災の時に一番怖かったのは、電子レンジと炊飯ジャーがジャンプしたこと。
私が知る最長記録は、冷蔵庫の上の電子レンジが向かい側のシンクに突っ込んでいったというものです。
それぐらい、ものが飛ぶんです。
ものが飛ぶと、凶器にもなります。
もし、そこに子どもや自分がいたら…、避難すらできなくなってしまいます。
家具を固定し、小型家電の下に耐震のジェルマットなどを敷くと、落ちることがなくなります。
キッチンをスッキリさせ、耐震化するのは、すごく大事なポイントですね。
(杉山)キッチンの他に、家の中でチェックしておいた方がいいというポイントは?
(アベ)まずは、寝室ですね。
子どもが寝る場所の安全を確保してほしい。
一番怖いのは、夜中の地震です。
真っ暗で何もできないし、子どもと部屋がバラバラだとすぐに助けに行けない。
寝ている時に、絶対にものが落ちないようにしておいてほしいです。
難しいですよね。
特に、子ども部屋にはマンガや教科書など、とにかく本が多い。
人間は、本で死ぬんです。
宮城で起きた地震でも、何名か本に押しつぶされて亡くなった方がいます。
本が塊になると、すごい重さになります。
対策としては、本棚を子どもの寝るベッドからなるべく離す、落下防止のテープを貼る。
一番簡単なのは、低いところに本を収納すること。
高ければ高いほど家具が揺れてものが落ちてくるため、なるべく低いところに本を入れると、安全度が高まります。
寝室を安全にしておくと、後々、そこがシェルターにもなります。
災害後にキッチンやリビングなどの足の踏み場がなくなっても、寝室だけでも何も被害がなければ、そこに子どもたちを避難させておいて大人が片づけに行くなどできます。
寝室をシンプルにする。
額縁や鏡などをあまり置かず、危険を排除する。
鏡を置いているご家庭はすごく多いと思いますが、揺れても倒れないようにチェーンをつける、倒れても割れないタイプの鏡に変えるなどの対策は取っていただきたいです。
(杉山)なるほど。
(アベ)家族が一番長い時間を過ごすリビングの中には、セーフティーゾーン(安全地帯)を作っていただきたい。
「揺れたらここに集まれ」という場所を作る。
大きな揺れがあると、本能的に何かつかむものをと求めて、壁とか棚とかにすがりたくなっちゃうんですよ。
そうではなく、照明も棚も何にも落ちてこないゾーンを作り、ソファーの上、ラグの上など、わかりやすい目印を決めておく。
「どんな時でも、揺れたらここに来なさい」ということを、家族の共有知識としてみんなで覚えておく。
子どもだけで留守番していたり、たまたま親子が別々の部屋にいたりという時に大きな地震が来ても「そこにいれば大丈夫」と安心できるので、セーフティーゾーンを作るのはぜひやっていただきたいです。
(杉山)事前に決め事をしておくのは大事なこと?
(アベ)そうですね。一番大切なのは、ソフト面だと思うんです。
家族で同じ認識を持っておく。
例えば、懐中電灯1つでも、ママは場所を知っているけれど他の誰も知らないというご家庭は、きっとたくさんあります。
防災グッズの場所をママは知っているけれどパパは知らないとなると、パパしかいない時に被災した時には何もない状態で、真っ暗な中ずっとママの帰りを待つことになってしまいます。
まずは、防災グッズがどこにあるのかを共有し、安全な場所はどこなのかを子どもにもしっかり教えておく。
夫婦が同じ認識を持っていないと、災害時に揉めるんですよ。
(杉山)災害時じゃなくても揉めますけどね…(笑)。
(アベ)災害時じゃなくても揉めるのに、もっと揉めるんですよ(笑)。
自宅避難を選択するのか、自分たちがいる場所が危険であれば避難所に行くのかというのも、事前に話し合っておいてほしいです。
(杉山)被災したことによるストレスがあると、夫婦はぶつかりやすくなる?
(アベ)かなりぶつかります。
我が家も、在宅避難するのか避難所に行くのかでかなり揉めました。
主が帰ってきたのは夜10時頃で、「ライフラインがないんだったら、避難所に行こう」と言われたのですが…
子どもを連れて自分自身が避難所に行ったことを想像すると、嫌だなって思ったんです。
着替え、おむつ替え、夜泣きで周囲に迷惑がかかるかもしれない…いろんなことを考えて、私は自宅避難がいいと私は言いました。
一方夫は、「これまでの震災の報道を見てきた中で、みんな避難所にいたでしょう?だから、避難所に」と主張。
このようにぶつかり、最終的には自宅避難となったのですが、その時の恨みは、いわゆる「産後の恨み」に匹敵するほどモヤモヤが残ります。
女性は、非常事態の時の記憶が残りやすいと思います。
実際、震災後には「震災離婚」という言葉が被災3県では非常に多く聞かれました。
大変な生活の中で、協力してもらえなかった・分かってもらえなかったという夫婦の溝は、元に戻すことが困難です。
それを防ぐためにも、事前に避難のことや備えのことなどを話し合っておいてほしいと思います。
(杉山)被災した時に一番守るべきは、もちろん命。
せっかく例えば家族全員命が助かったとしても、そこで揉めると、その後さらに家庭内での災害が起こるというわけですね。
(アベ)それは、かなり大きな災害ですよね。
被災生活には、テレビで見るような非常事態が続いているイメージが強いですが、実際に被災して痛感したのは、「超不便な日常が翌日から始まる」というイメージです。
突然、原始人みたいな生活に陥る。
電気も、水道も、ガスも止まり、いつ復旧するかも分からない。
物流が止まり、商品が届かない、食料が手に入らない。
突然、びっくりするほど不便な生活に陥れられます。
でも、やっぱり人間、お腹はすきますし、お風呂に入りたいと思います。
髪の毛なんて、2~3日でベトベトになります。
「不便な日常がやってくる」と認識してほしいなと、私は思います。