仕事と子育てはどうバランスを取ればいいか?パパたちの生き方セミナー【Part2 自分の「思い込み」を知る】

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【Part2 自分の「思い込み」を知る】
【Part3 親が多様な視点を持つ】
【Part4 今後のパパたちの課題は?】
【Part5 子どもたちへ生き方をどう伝えるか】

<お話を聞いた人:田中俊之さん>
大正大学准教授 社会学者 男性学のスペシャリスト
渋谷区男女平等推進会議委員、プラチナ構想ネットワーク特別会員
1975年、東京都生まれ。大正大学心理社会学部准教授 男性学を主な研究分野とする。
著書『男性学の新展開』青弓社、『男がつらいよ―絶望の時代の希望の男性学』KADOKAWA、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』イースト新書、『男が働かない、いいじゃないか!』講談社プラスα新書、小島慶子×田中俊之『不自由な男たち――その生きづらさは、どこから来るのか』祥伝社新書、田中俊之×山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』イースト新書、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』岩波ジュニア新書
日本では“男”であることと“働く”ということとの結びつきがあまりにも強すぎる」と警鐘を鳴らしている。

<聞き手:杉山錠士さん>
兼業主夫放送作家。NPO法人ファザーリング・ジャパン会員。
1976年、千葉県生まれ。18歳と10歳という年の離れた二人の娘を子育てする兼業主夫放送作家として、FMラジオを中心に情報番組、子育て番組などの構成を担当。「日経DUAL」をはじめWEBメディアでは各種コラムや記事を執筆し、「日大商学部」「筑波大学」や大田区両親学級、品川区男女共同参画課などで講演を実施。地域ではPTA会長やパパ会運営を歴任。子育てアイテム「パパのツナギ」企画制作販売、パパ向け情報サイト「パパしるべ( https://papashirube.com/ )」編集長。

◎協力:Read it LOUD阿佐ヶ谷校(アルーク阿佐ヶ谷内)

トーク内容テキスト(一部編集しています)

(田中)取り上げられていないだけで、いい取り組みはいっぱいあります。

長野県岡谷市の男女共同参画の情報誌で知った事例。
従業員200名強の小さな企業で、双子のパパに育児が大変だろうと、会社が9ヶ月の育休を与えたそう。
世間では「中小企業では男性育休は取れない」なんて議論もあるが、地方の比較的保守的な地域にもこのような実例がある。
このような事例を掘り出して、どんどん世間にPRしていきたいですよね。

(杉山)(男性育休100%達成している)サカタ製作所のようなところもありますね。
トップ層が「100%取らせる」という気持ちでやっていると、状況が変わってくるのかもしれません。

男性同士で異世代間の意識のギャップがあると思いますが、これが解消されない背景には何があるのでしょうか?

(田中)背景として明白なのは、今のトップ層の男性たちは、同期入社の女性たちが結婚・妊娠・出産で退職している姿を見てきていることです。
また、トップ層の男性たちの配偶者も、同様に結婚・妊娠・出産で退職をしています。

2000年代頃まで、多くの女性は結婚・妊娠・出産で仕事を辞めています。
そのため、トップ層の男性は「女性は結婚・妊娠・出産で退職する」と考えており、そのような実態もあるので、うまく転換できていない人も一定数いる。
けれど、みんながみんなというわけではありません。

以前、インタビューした定年退職者の事例。
彼は、「授業参観があるので、仕事を休みます」という男性部下に対して、最初は「なぜ授業参観ごときで休むのか」と腹が立っていたと言います。
けれど、そういう部下が増えてくると、「そういう時代なのだ」と理解し、気持ちよく送り出すようになったそうです。
最後には、彼は「子どもの授業参観での姿なんて、自分は一度も見たことがない…」と後悔したのだとか。

時代の変化をちゃんと見られている人は変わっていきます。
そうじゃないトップのいる会社で働くのって、怖いですね…

(杉山)会社が、時代の変化についていけなくなる。
社員のQOLだけではなく、社会のQOLについていけなくなると、事業は縮小していきますよね。

(田中)事業は縮小し、いい社員は出ていくし、採用できなくなる。
人事面で困っていくことになるのではないでしょうか。

NTTデータの男性育児休業取得率は2割程度ではあるものの、平均取得日数が72~73日とのこと。
2~3ヶ月あれば、女性の産褥期もクリアしているし、いろいろなことができますよね。
このように、いい感じの平均の取得日数の企業もあります。

法改正により、大企業には男性の育児休業取得率の公表が義務化されました。
「育児休業取得できる」というところから派生して、その会社の価値や大事にしているものが見えてくるので、就職時・転職時の判断材料になっていくと思います。

(杉山)これから、改正育児・介護休業法が施行されていきます。(収録時2022年2月時点)
今回の法改正の中で、先生が注目しているポイントはどういうところでしょうか?

(田中)やっぱり、1000人以上の企業の取得率公表が義務になったという点。
以前、大学で就職担当を務めていました。
四季報に離職率が掲載されているのですが、これに対しNA=No Answerという会社があるんです。
答えたくないということは、やっちゃってるな…ということがわかりますよね。

今後、四季報には男性の育休取得率が掲載されていくんじゃないかと思います。
いい人材は出ていき、新しい人材は入ってこなくなるでしょう。
公表が義務化し、何年も数字が積み重なることで、実績になる。
見せしめはあまり好きではないけれど、なかなか企業が変わらない状況で、義務化はいいんじゃないかなと思います。

また、育休の周知義務が付与された点も注目しています。
「うちの会社には育休がない」「育休中のお金は会社が出してくれる」というように、育休にはすごく誤解が多いです。

興味がないことについては、知ろうとしないもの。
正しく周知されることで、「育休を取得して、お金の面で会社に迷惑をかけるわけではない」「妻が専業主婦でも、育休取得する権利がある」とわかれば、取得しようかなと考え始める人もいると思います。
他にも、育休の分割取得ができるなど、今回の法改正は制度を使う人目線で行われているので、結構期待しています。

(杉山)出生後8週間以内に4週間まで取得可能になったり、労働者が合意した範囲で休業中の就業ができるようになったりと、対象者にアジャストしようと頑張っている感じがしますね。

(田中)育休中でも、メールしたり電話したり、ちょっとした作業はできないわけではないですからね。

(杉山)これまでは、「育休中に働くなんて認めない、休むならちゃんと休め」という空気でしたよね(笑)。
こういうことでもないんだけどなあ…

先程の例にもあった、「1ヶ月育休を取らせてやったんだから(その分しっかり働け)」ということ、やっぱりあるじゃないですか。
問題は、どこにあるでしょうか?
そのような発言をする上司なのか?社内の空気なのか?

(田中)企業の人事担当者から、「男性が育児休業を取ると、我が社にはどんなメリットがありますか?」という質問をよく受けます。
この質問に対しては、次のようにお伝えているんです。

「視点を変えてください。
今までは、よその家の妻をタダ働きさせてきている。
キャリアを断念させ、経済的自立も叶わない状態にした上で、家事・育児を無償でやってもらっていたから、今まで男性正社員を無限定に働かせることができたんです。
これからは、妻が専業主婦でも共働きでも、男性にも家庭の責任も負ってもらいましょう。
よその家の妻を、タダでは使えませんよ。」

企業の人の前ではこう言えませんけれど…「盗人猛々しい」。
盗んでいるのに、まだよこせと言っているようなもの(よその家の妻をただ働きさせているのに、男性育休で会社のメリットを上乗せできると考えている)。
女性がキャリアを断念している、経済的に自立できない、無償で家事・育児をやってくれている…このような視点がない人が、企業の中枢にいる。

いきなり「変われ」ということではなく、新しいものの見方を頭ごなしに否定せず、「確かに、そういう見方もあるのか」と思える人が増えてくれば、状況は変わってくると思います。
変わるのは、自分で変わっていくしかない。
私のような外部の人間の言うことは、視点の提供。
それを受けて、「なるほどね」と自分自身のアンコンシャス・バイアスが外れるようなことがあればいいなと思います。

このような話をして、怒るような人はほとんどおらず、「従業員のパートナーをタダ働きさせていたなんて、考えたことがありませんでした!」と気づく方が多いです。

(杉山)「会社は利益を上げなければならず、そのためにみんなで協力していかねばならない」という考えの中では、短期的なメリット/デメリットで話が進みがち。
男性育休や子育てという視点は、なかなか会社には届きにくくなりますよね。

(田中)コロナ禍ではネガティブなことも多いですが、チャンスの側面もある。
例えば、「満員電車に乗って全員が9時に出社する必要があるか?」と訊ねたとして、コロナ前なら「必要がある」と答える人が大多数でした。

昼休み時には、オフィス街の飲食店に行列ができる。
「昼休みを、11時~・12時~・13時~などと分けて取ればいいのではないか?」と言っても、「12~13時しか休めないんだ」などと返ってきていた。

…嘘だったじゃないですか(笑)。

もちろん、必ず出社しなければならない仕事・その場に固定する必要のある仕事などはありますが、実はそうではない仕事が多いということが分かりました。
台風が来ても、前日からホテルに泊まり、翌朝9時には出社しなければならない…など、「~ねばならない」という、思い込みがあった。

思い込みが多かったことに気づく機会となったことで、「じゃあ、他にも思い込んでいることは何だろう?」ということを提示しやすくなった気がします。

(杉山)2020~2022年にかけて、リモートワークが当たり前になりつつあります。
それを受けての地方移住や大学生が実家に戻るなども増えてきました。
コロナが落ち着いてきて、急にまた「それはダメだ」という風潮になってくるのではないか…と懸念しています。

(田中)杉山さんのおっしゃることはよくわかります。
こういう時に、いい変化だけが起こり、かつ持続するというのは、甘い考え。

コロナの初期頃から、「これで社会は変わるのか?」といった質問を取材で受けていましたが、「東日本大震災の時も、何も変わらなかったじゃないですか」と回答していました。
元に戻す力は、異常に強い。

東日本大震災直後、みんなで電気を真っ暗にして過ごしました。
けれど、今はこの通り、電気を当たり前に使っています。
駅の自販機なんて、電光掲示板みたいになっているじゃないですか。
みんな、「電気は無限に湧いてくる」とでも言わんばかりに過ごしています。

「喉元過ぎれば…」というものです。

私の大学でも、「リモートって、さぼってるだろう…」などと考える人がトップ層にいます。
変化について行けず、「目の前で働いてほしい、監視しておきたい」と考えている人はいるので揺り戻しは起こりかねないと思っています。

(杉山)世の中が大きく変わってきているわけじゃない気がしています。
力を込めて引っ張っても、強力なゴムがついていて、手を離すと戻っちゃうような感覚。
今回の男性育休の話にしても、どこかで戻されてしまうんじゃないかという気がしています…。

先日、サイボウズの青野さんとお話をした時のこと。
子どもたちが「保護者会や学芸会の時に、お父さんは会社を休めないのか?」と疑問を投げかけられたら、青野さんならどう答えますか?ということをお訊ねしてみました。

さすがは青野さん!
例えば、親から「家族旅行に行くから学校休んで」と言われて、「無理だよ」と答える子どもは多い。
それと一緒だよ、ということを子どもに言えばいいのではないかという回答でした。
子どもなら、「学校は行かなければいけないもの」、大人なら、「会社は行かなければいけないもの」といった思い込み。

ジェンダーに関しても、アンコンシャス・バイアスは変わらず根強いですよね。

(田中)先日、ダイバーシティ&インクルージョンのソニーのイベントに登壇しました。
ファシリテートしていたソニーグループの望月社長は、自分の視点に限界があるという前提を非常に強く持っている方だと感じました。

私は異業種で年下だけれど、(私が言ったことを)「おもしろい!」と言ってメモを取っていました。
一緒に登壇していた辻愛沙子さんは年下で女性だけれど、望月社長はそんなことも全く思う様子もなく、「おもしろい」「今日は楽しい」と喜んでおられました。

青野さんも同様、自分の視点に限界があると考える、知的な謙虚さをお持ちの人。
そういう人は、流れが変わっても、その流れに固執しないでついて行けるから、いい経営者なんだと思います。

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